焼けやすいのは郊外の裕福な住宅地だった。アメリカの市街地に入り込んだ141件の火事で、所得が高い地区ほど燃え、燃えたあとの回復も早かった

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2025年1月、ロサンゼルス近郊のアルタデナとパシフィック・パリセーズを襲った2つの山火事は、合わせて23平方キロメートルあまりの市街地を焼きました。森や草地を焼く火が町へ入り込む出来事は、アメリカではここ数年、何度も繰り返されています。2018年にはカリフォルニア州パラダイスの町が焼け落ち、2023年にはハワイのラハイナの中心部が焼けました。

ところが、こうした「市街地に入り込んだ火事」を全国の規模でまとめて数えた研究は、ほとんどありませんでした。研究の多くは1件か数件の火事を対象にしていて、町を焼く火事が増えているのか、どんな土地で起きやすいのか、焼けた町がその後どう変わるのかは、はっきりしていなかったのです。

カリフォルニア大学リバーサイド校の都市生態学者 Dion Kucera さんと G. Darrel Jenerette さんは、1984年から2025年までの42年間にアメリカの市街地に入り込んだ火事を141件洗い出し、衛星画像と気候の記録、国勢調査の数字を重ねて調べました。論文は2026年8月4日に npj Urban Sustainability に掲載され、大学が9月16日に発表しています。見えてきたのは、火事に遭いやすい地区には明確な傾向があり、しかも焼けたあとの回復の速さにも同じ傾向が表れる、という結果でした。

市街地に入り込んだ火事141件の数え方

研究チームが使ったのは、アメリカ地質調査所と森林局が共同で運営する「MTBS」という山火事のデータベースです。西部では約4平方キロメートル以上、東部では約2平方キロメートル以上の大きな火事について、焼けた範囲と焼け方の強さが30メートル刻みの地図で記録されています。2025年分はまだ MTBS に入っていないため、国の防火機関がまとめている速報の火事範囲を使いました。

この火事の範囲に、人工衛星の観測から作った「市街地」の地図を重ねます。住宅や道路といった開発された土地のうち、人の住む集落として連続している部分だけを取り出し、火事の範囲がそこと0.2平方キロメートル以上重なっているものを「市街地に入り込んだ火事」と数えました。郊外に点々と建つ建物や農業用の施設は、この段階で外れます。残ったのが141件で、そのうち本格的な分析には、焼けた面積が0.5平方キロメートル以上の70件を使っています。

ひとつ注意がいるのは、MTBS がもとから大きな火事しか記録していない点です。そのため、規模は小さいのに多くの家を焼いたような火事は、この研究の数に入っていません。研究チームも、結果は都市への火事の影響を控えめに見積もったものだと書いています。

件数は増えず、面積は「極端な年」が運んでいた

まず、火事の件数です。市街地に入り込む火事が1年に何件あったかを並べると、42年間で増えた形跡はありませんでした。山火事そのものは世界的に増えていると言われますが、町に入り込む火事の数は、年ごとのばらつきこそ大きいものの、増えても減ってもいなかったのです。

一方、焼けた市街地の面積は増えていました。0.5平方キロメートル以上の火事をまとめると、1年あたり0.22平方キロメートルずつ増える傾向です。ただしこの傾向には但し書きがつきます。焼けた面積は特定の年に集中していて、2018年だけで全期間の20.5パーセント、2018年・2025年・2003年の3年で41.6パーセントを占めていました。2018年を外すと、統計のうえでは増加と言い切れなくなります。研究チームはこれを「毎年じわじわ増えている」のではなく、「とびきり大きな年が、以前より重くなっている」と読んでいます。

火事に遭った地区に住む人の数も見ています。少なくとも1回は火事が入り込んだ国勢調査区に住む人は、1990年の約206万人から2023年には約280万人に増えました。ただ、全人口に占める割合は0.89パーセントから0.90パーセントとほとんど変わっていません。火事に遭いやすい土地へ人がことさらに集まったわけではなく、アメリカ全体の人口が増えたぶんだけ、危ない場所に住む人も増えた、という計算です。

前にあったのは長い干ばつではなく、直前の急な乾燥

次に、火事が起きる前の天気を12か月さかのぼりました。森林火災では、何年も続く干ばつが下地になることが知られています。ところが市街地に入り込んだ火事では、12か月分の雨量を平年と比べても、はっきりした不足は見つかりませんでした。

代わりに見えたのは、短い期間の急な乾燥です。火事のおよそ8か月前にはむしろ平年より湿っていて、そこから直前の3〜4か月で雨量が減り、空気が乾き、土地の水の不足が急に深まっていました。湿った時期から乾いた時期へ急に切り替わるこの流れを、研究チームは「ホイップラッシュ(鞭打ち)」と呼んでいます。指標の取り方によって幅はありますが、火事の41〜43パーセントでこの切り替わりが起きていました。

湿った時期に茂った草や灌木(かんぼく)が、直後の乾燥でよく乾いた燃料になる、というのが研究チームの見立てです。そこへ熱波や強風が重なると、火は一気に町まで走ります。この結果から Kucera さんは、都市の火事の警戒には何年分もの干ばつの指標より、3〜6か月という短い期間の水分の指標のほうが役に立つのではないかと述べています。

燃えやすいのは、郊外の裕福な持ち家の地区

ここからが、この研究の中心です。火事に遭った国勢調査区と遭わなかった調査区を、所得・住宅・学歴・人種構成などの数字で比べました。気候の違いを取り除いたうえでの結果は、はっきりしていました。

世帯所得の中央値が高い地区ほど、火事に遭いやすかったのです。所得が標準偏差1つぶん高いと、火事に遭うオッズ(起きる確からしさを表す統計の値)は30パーセント上がりました。持ち家に住む世帯の割合が高い地区も、同じく30パーセント高くなります。逆に、人口密度が高い地区は火事に遭いにくく、オッズはおよそ半分でした。つまり燃えていたのは、家がまばらに建つ、所得の高い、持ち家の多い郊外の住宅地です。Kucera さんは大学の発表で、この傾向は40年以上変わっていないと話しています。

理由の多くは、場所にあります。大学の発表によれば、こうした地区は丘の斜面や谷筋など、燃えやすい自然の土地と接する場所に建てられていることが多いのです。眺めがよく自然に近い土地は住宅地として好まれ、そこに建つ家は値段が高く、持ち家になりがちです。景色のよさと火事に遭いやすさが、同じ土地の裏表になっていました。

人種の構成も調べていますが、こちらは気候で様子が変わりました。全国で見ると、白人や黒人の住民の割合が高い地区は火事に遭いにくい計算になります。ところがカリフォルニアのような夏に乾く気候の地域だけを取り出すと関係が逆転し、どちらの割合が高い地区も火事に遭いやすくなっていました。研究チームは、全国の数字は「どの人たちがどの気候の土地に多く住んでいるか」を映しているだけで、湿った地域に多く住む集団は火事の少ない土地にいるから守られて見える、と説明しています。

焼けた町は5年たっても暑く、緑も戻っていなかった

火事のあとはどうなるのか。研究チームは、地球観測衛星ランドサットの画像から2つの数字を追いました。ひとつは植物の緑の濃さを表す指標(NDVI)、もうひとつは地面の表面温度です。どちらも30メートル刻みで、火事の前後を月ごとに比べられます。

強く焼けた場所では、火事から3か月のうちに緑の濃さが中央値で41パーセント下がり、地表の温度は季節の変動を取り除いても2.35度上がっていました。緑が減ると、葉からの水の蒸発による冷却が失われ、地面が熱を持ちます。実際、緑の減り方が大きい火事ほど温度の上がり方も大きく、火事ごとにまとめると、緑の指標が0.1下がるごとに地表温度が1.17度上がる関係でした。

回復には時間がかかります。強く焼けた場所のうち、5年たっても緑の濃さが火事前の水準に戻っていないところが73パーセント、地表温度が戻っていないところが78パーセントありました。しかも、衛星で見た緑の濃さが戻ったとしても、木々が戻ったとは限りません。焼けた木の代わりに草が生えると、指標の上では緑に見えても、木陰や蓄えた炭素は戻っていないからです。研究チームは、植え直しをしないと、こうした場所は背の低い、燃えやすい草地に置き換わっていくおそれがあると書いています。

回復の速さも、所得で分かれていた

そして、この回復の速さにも所得が関わっていました。世帯所得の中央値が1万ドル高い地区は、地表温度が火事前の範囲に戻る速さが約10パーセント速く、5年以内に戻るオッズは33パーセント高かったのです。火事の直後に緑を失う量も、所得の高い地区ほど小さく抑えられていました。

研究チームはこれを、瓦礫(がれき)の撤去や再建、散水や植え直しに使える資源の差と見ています。焼け跡を早く片づけ、家を建て直し、芝や木に水をやれる地区は、地表の温度が早く下がります。一方、火事直後の温度の上がり方そのものには所得との関係がなく、こちらは気候や焼ける前の植生で決まっていました。社会の条件が効いてくるのは、そのあとの「戻る速さ」のほうです。

まとめると、市街地に入り込む火事は二つの段階で地区を選り分けていました。まず、火事に遭いやすいのは燃えやすい土地に建つ裕福な郊外の住宅地です。そして同じ火事の焼け跡の中では、資源の多い地区ほど早く元の環境に戻れる。研究チームはこれを「二段階の不平等」と呼んでいます。裕福な地区が火事に遭いやすいという最初の結果だけを見ると意外に聞こえますが、その裏で、同じ火事に巻き込まれた資源の少ない地区ほど、暑く緑のない状態が長く続きます。

都市の火事を森林火災の延長として扱わない

この研究が言えることには限りもあります。調べた単位は国勢調査区で、焼けた1軒1軒に誰が住んでいたかは分かりません。建物の被害や煙の影響も扱っていません。焼けた面積の増加も、極端な年の影響が大きく、統計の取り方によっては有意と言えなくなります。方向としては一貫して正だが、強い証拠とまでは言えない結果だと、研究チーム自身が書いています。

それでも、ひとつの主張は一貫しています。市街地に入り込む火事は、森林火災の延長として扱うべきではない、ということです。燃えやすさは気候だけでなく、どんな土地にどんな人が家を建てたかで決まり、回復の速さはその地区が持つ資源で決まる。Kucera さんは、都市の火事の問題は森林のように気候だけで組み立てられてはいない、と言っています。衛星と国勢調査のデータは他の国でもそろうので、研究チームはこの枠組みが、火事に見舞われる他の国の都市にも使えると考えています。

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