1976年に「どうも大きい」と書き添えられた卵は、新種のナナフシのものだった
それだけ見られている虫でも、種の数え方はまだ固まっていませんでした。シドニー大学のブラクストン・ジョーンズさんたちは、オーストラリアのアンキアレ属を洗い直し、これまで主に2種として扱われてきたものが、実は5種に分かれることを示しました。そのうち2種は新種です。論文は2026年9月21日、学術誌 Austral Entomology に掲載されました。
見慣れた大型ナナフシを数え直す
ナナフシは種ごとの見分けがむずかしい虫です。同じ種でも体の色や模様に幅があり、混み合って育つと体色が変わる種もいます。オスとメスで体つきが大きく違うのもふつうです。見た目だけで線を引こうとすると、別の種をひとまとめにしたり、同じ種を分けすぎたりしやすくなります。
研究チームは、いくつもの手がかりを突き合わせました。オーストラリア各地の博物館に収められた標本、19世紀に名前の基準になった古い標本、野外での調査、市民の観察記録、そして飼育下で何世代も育てられてきた個体群です。そのうえで、ミトコンドリアの遺伝子(COXI)の一部を読んで、種どうしの近さを系統樹にしました。
その結果、オーストラリアのアンキアレ属は次の5種に整理されました。
- A. briareus:以前からいる種。いくつかの古い学名がこの種にまとめられた
- A. albopunctata:長く A. briareus と同じ種とされていたが、別の種として復活した
- A. spinicollis:以前からいる種
- A. robusta:新種
- A. mabiensis:新種
この整理には、虫好きだけでなく林業にも関わる話が含まれています。このなかまには、ときどき大発生して木の葉を食べ尽くすことで知られるナナフシがいます。シドニー大学の発表によると、その「大発生するナナフシ」も、ふたを開けてみると1種ではありませんでした。どの種がどこで増えるのかが分かれば、被害への備え方も変えられます。
1976年の卵の記録に残っていた違和感
新種のひとつ A. robusta は、新しく見つかった虫ではありません。昔から研究者にも飼育する人にも知られていたのに、別の種の名前で呼ばれていた虫です。
論文が学名の使われ方をたどったところ、1976年に出版された文献に手がかりがありました。そこでは、飼育されていた個体群の卵が当時の Ctenomorphodes briareus(いまの A. briareus)の卵として記載されています。ただし著者は、その個体群は体が大きく翅(はね)も長いので確かではない、と但し書きを添えていました。今回の論文は、この卵こそ A. robusta のものだったと結論づけています。半世紀前に気づかれていた「どうも大きい」という違和感が、DNA と標本の比較でようやく別の種だと確かめられたことになります。
名前の基準になる標本(ホロタイプ)も、意外なところにありました。2009年にクイーンズランド州北部の海辺で採集され、DNA 分析用に保管されていたメスです。このときも、ラベル上は A. briareus の仮の同定でした。
A. robusta の名前は、ラテン語で「がっしりした」という意味です。ホロタイプのメスは体長160ミリあり、メスの体長は122〜162ミリの幅に収まります。後ろの翅が腹の4節目まで届く点などで、3節目までしか届かない A. briareus と見分けられます。クイーンズランド州北部の沿岸の熱帯雨林に、少なくとも450キロにわたって分布し、アカシアなどさまざまな木の葉を食べます。
ふたに輪のある卵とマビの森
もうひとつの新種 A. mabiensis は、クイーンズランド州北部のアサートン高原に残るマビの森で見つかりました。玄武岩の土地に育つ、雨の多い熱帯のつる植物の森で、残りわずかになって絶滅のおそれが極めて高い生態系とされています。ホロタイプは2023年2月、標高730メートルのマランダという町の近くで採集されたメスで、体長は約115ミリでした。グレー・サッサフラスという木の葉を食べているところが見つかっています。
この種をほかと分ける決め手は卵です。ナナフシの卵には一方の端にふたがあり、幼虫はそこを押し開けて出てきます。アンキアレ属の卵のふたには、ふつう中央に盛り上がりがあり、その上に白から黄色のこぶがついています。ところが A. mabiensis の卵にはこのこぶがなく、黒い突起だけが立ち、まわりに2〜3本の輪が刻まれていました。この輪はほかのアンキアレ属の卵には見られません。シドニー大学は、ナナフシやその近縁のなかまでこれまで記録されたことのない構造だと説明しています。卵そのものも黒くつやがあり、表面には盛り上がった筋が走っています。
上の画像は想像図です。実際の卵や成虫の写真は、出典の論文で見られます。
名前がつくことで守れるもの
今回の整理で終わりではありません。論文は、クイーンズランド州北端のケープヨーク半島に、まだ名前のない別の種がいる可能性を指摘しています。標本が足りないため、記載は見送られました。復活した A. albopunctata も遺伝的なばらつきが大きく、系統樹では大きく2つのグループに分かれます。ただ、翅の長さや卵の形などに違いが見つからなかったため、今回は1種のままにしています。
ジョーンズさんは、絶滅のおそれがある生態系を守ることと、種を見つけて記録することの両方が大事だと話しています。マビの森のように面積が限られた場所では、そこにしかいない虫が、名前もつかないうちに消えてしまうことがあります。種として名前がつけば、分布を調べ、保全の対象として数えることができます。
1,000件を超える観察記録がある虫でも、標本棚と飼育記録と DNA をつなぎ直すと、まだ新しい種が出てきました。よく知っているつもりの身近な生き物ほど、もう一度ていねいに見る価値があるのかもしれません。
出典
- Jones, B. R. et al. (2026) A Revision of Australian Anchiale Stål, 1875 (Phasmida: Phasmatidae), with the Description of Two New Species. Austral Entomology 65(4): e70096(オープンアクセス)
- The University of Sydney: New stick insect species revealed in Australia's backyards and rainforests(2026年9月22日)
- ScienceAlert の紹介記事(2026年9月23日)


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