宇宙誕生から5億年、銀河はもう重元素を外へ吐き出していた。JWST が3つの銀河の光から読んだ「汚れ」の広がり

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宇宙が始まったとき、あったのは水素とヘリウム、ごくわずかなリチウムだけでした。炭素も酸素もケイ素も、星の中で作られて初めて世に出ます。だから宇宙の最初の星は、重元素をまったく含まない「混じり気のないガス」から生まれたはずで、そういう星は「種族III」と呼ばれています。ただ、この種族IIIの星はまだ1つも見つかっていません。

見つからない理由の候補はいくつもありますが、その1つが「混じり気のないガスが、思ったより早く消えてしまった」というものです。最初の銀河ができて星が生まれ始めると、超新星などが重元素をまき散らします。それが銀河の中だけにとどまらず、外のガスにまで混じってしまえば、次の世代の星はもう「混じり気なし」ではなくなります。問題は、それがいつ始まったのかでした。

アリゾナ大学スチュワード天文台の Yongda Zhu さんと Zhiyuan Ji さんを中心とするチームは、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)で撮った3つの銀河の光から、宇宙誕生後およそ5億〜7億年の時点で、重元素を含むガスが銀河の外へ向かって流れ出していたことを見つけました。論文は2026年9月24日に Nature Astronomy に載りました。

銀河の中ではなく、銀河のまわりを見たい

JWST が来てから、ごく初期の銀河の中に重元素があることは、すでにいろいろな方法で分かってきました。銀河のガスが光る「輝線」を調べると、赤方偏移14、つまり宇宙誕生から3億年もたたない銀河にも酸素や炭素の信号が見えます。星が生まれれば、その場で重元素ができるのは当然といえば当然です。

分かっていなかったのは、その重元素が銀河の外、まわりのガスにまで出ていっていたかどうかです。銀河はガスを吸い込んで星を作り、星が死ぬと重元素を含むガスを吐き出し、そのガスがまた戻ってきて次の星になります。この出し入れは「バリオン循環」と呼ばれていて、現在の宇宙では当たり前に起きています。それが宇宙の最初の数億年で、もう回り始めていたのかを直接確かめた観測はほとんどありませんでした。

遠くの銀河のまわりのガスを調べる定番の方法は、さらに遠くにあるクエーサー(活発なブラックホールが光る天体)を背景の灯りにして、手前のガスが吸い込んだ波長を「吸収線」として読むことです。ただ、この方法が届くのは赤方偏移6.5あたりまでで、その先はクエーサー自体が足りません。

銀河そのものを背景の灯りにした

チームが使ったのは、JWST の近赤外線分光器 NIRSpec による「SPURS」という観測プログラムのデータです。銀河団エイベル2744の方向を、1つの分光器の設定だけで29時間あまり、3つの設定を合わせると約40時間かけて撮った、とても深い分光観測です。このデータの中で、紫外線の光が十分に明るく、ノイズに埋もれずに連続した光(連続光)が取れた銀河が3つありました。赤方偏移で9.31、7.88、7.29。宇宙誕生からそれぞれおよそ5億年、6億5,000万年、7億年のころの銀河です。

やり方は、クエーサーを使うときと同じ考え方です。ただし背景の灯りは、その銀河自身の星の光です。銀河の星から出た光が、銀河のまわりのガスを通り抜けてくるとき、ガスに含まれる元素が決まった波長を吸い込みます。だから銀河の光のスペクトルを細かく見れば、吸収線の位置から「何がある」が、吸収線のずれから「どう動いている」が読めます。3つの銀河は、連続光が取れるかどうかだけで選ばれていて、重元素があるかどうかは選ぶ段階では分かっていませんでした。

3つの銀河のスペクトルには、酸素(O I)、ケイ素(Si II)、炭素(C II)の吸収線がはっきり出ていました。さらに、もっと強く電離した(電子をたくさん失った)ケイ素と炭素の吸収線(Si IV と C IV)も見えました。これらの吸収線の形は、宇宙誕生から約20億年のころの銀河(赤方偏移3前後)を何百個も重ねて作った「平均のスペクトル」と、見た目でよく似ていました。つまり、宇宙誕生から5億年の銀河のまわりのガスが、その15億年後の銀河とだいたい同じ顔をしていたことになります。

吸収線が、どれも「こちらへ来る」側にずれていた

この研究でいちばん大事なのは、吸収線が見えたことそのものより、その位置です。

銀河の「本当の位置」は、銀河のガスが出す輝線(ここでは酸素の [O III] という輝線)の波長で決めます。その基準に対して、重元素の吸収線は3つの銀河のどれでも、波長の短いほう、つまり青いほうにずれていました。速さにすると、秒速50〜250キロメートルです。

青いほうへずれるのは、光を吸い込んだガスが、観測者のいる側へ向かって動いているときです。銀河の星の光を背景にして、手前のガスがこちらへ動いて見える。これは、ガスが銀河から外へ向かって流れ出していることを意味します。宇宙の膨張では、こういうずれは作れません。

しかも、ずれ方には順序がありました。中性の酸素や、電離の弱いケイ素・炭素より、強く電離したケイ素・炭素のほうが、さらに秒速60〜210キロメートルほど速くこちらへ動いていました。温度や電離の度合いが違うガスが同じ向きに、しかも熱いほうが速く流れている。これは、現在の宇宙で星の爆発が銀河のガスを吹き飛ばす「銀河風」のシミュレーションに出てくる形です。重元素があるだけでなく、それが銀河の外へ運ばれている最中の姿を、著者たちは見ていたことになります。

吸収線の幅からも、同じことが言えます。幅をすべて熱運動のせいだとして温度を見積もると、上限は約1,000万度になります。実際にはそんなに熱くはなく、ガスのかたまりが乱れて動いたり、速さの違う流れが重なったりして幅が広がっていると考えるのが自然です。静かに銀河の中に居座っているガスでは説明しにくい、というのが著者たちの見立てです。

混じり気のないガスは、長くは残らなかったかもしれない

宇宙の「再電離」は、最初の星や銀河の光が宇宙に満ちていた中性水素を電離していった時代で、赤方偏移7〜8(宇宙誕生から6億5,000万〜7億5,000万年)あたりが折り返し点、赤方偏移5.3ごろに終わったとされています。今回の3つの銀河は、その折り返し点かそれより前にあります。重元素を作り、電離の度合いの違う複数のガスにして、外へ出す。バリオン循環の主な材料は、再電離の前半にはもうそろっていた、というのが論文の結論です。

これを冒頭の話に戻すと、最初の星が生まれた「混じり気のないガス」は、銀河の近くでは早々に汚れていった可能性があります。Zhu さんは大学の発表で、重元素が銀河から逃げ出したのは宇宙の歴史のごく早い時期で、銀河は重元素を作るだけでなくまき散らし、ほかの銀河に「種をまいた」かもしれない、と話しています。種族IIIの星がなかなか見つからない理由の1つは、ここにあるのかもしれません。

ただ、言えることと言えないことの線は、論文の中ではっきり引かれています。見たのは、紫外線で特に明るい3つの銀河だけで、暗い銀河やふつうの銀河で同じことが起きていたかは分かりません。青いずれが、銀河のすぐそばから吹き出すコンパクトな流れなのか、もっと広がったまわりのガス全体の動きなのかも、今の分解能では区別できません。弱い活動銀河核(ブラックホールの活動)が混ざっている可能性も完全には除けないとしています。それでも、再電離の折り返しより前の銀河のまわりに、重元素を含んで動いているガスがあった、という事実は残ります。

今回の3つは、たまたま明るくて連続光が取れた銀河でした。JWST の深い分光観測が増えれば、同じ方法で調べられる銀河も増えます。「汚れ」がどれくらい早く、どれくらい広く広がったのかは、これから数が集まるにつれて見えてくるはずです。

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