ミソフォニアの人の39% には、親か兄弟姉妹にも同じ症状があった。母親29%、父親9%。音の嫌悪が家族で重なる様子を、101家族の親自身の回答で数えた

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家族の食事の席で、誰かが物をかむ音、鼻をすする音、ペンをカチカチ鳴らす音。ほとんどの人には気にもならない音が、ある人には怒りや焦り、ときには逃げ出したくなるほどの苦痛として届くことがあります。これをミソフォニア(misophonia。日本語では「音嫌悪症」と訳されることもあります)と呼びます。本人が「大げさ」と言われがちな一方で、当事者の間では「うちは親も同じだった」「子どもにも出た」という話が昔からありました。イェール大学医学部の研究チームが、この「家族で重なる」という話を、当事者だけでなくその両親にも直接たずねて数字にしました。101家族ぶんの結果が、2026年3月に査読前の論文として公開されています。

ありふれた音が引き金になる症状

ミソフォニアは病名として広く確立しているわけではなく、診断基準も研究者の間でまとまりきっていません。それでも、症状の形はかなりはっきりしています。引き金になる音の多くは、人が口や鼻、体を動かすときに出る音です。咀嚼(そしゃく)、すする音、呼吸、ささやき、キーボードやペンの音。その音を聞いた瞬間に、怒り、嫌悪、不安、「その場から出たい」という衝動が、ほとんど反射のように立ち上がります。音そのものが大きいわけではないので、周りの人には何が起きているのか分かりません。

どれくらいの人にあるのかについては、2023年にイギリスで行われた調査がよく引かれます。イギリスの人口を代表するように集めた成人の回答と、専門家の面談を組み合わせて見積もると、症状が生活にはっきりした負担を与えている人は18% ほどという結果でした。「とても珍しい症状」ではないということです。また、脳の研究では、ミソフォニアの人は音を聞く聴覚野の反応そのものは他の人と変わらず、代わりに、口や顔を動かす運動のための領域が引き金の音に強く反応する、という報告が2021年に出ています。他人の口の動きを、自分の運動系が過剰に「なぞって」しまうのではないか、という見方です。

いつから始まるかについては、300人超のミソフォニアの人に尋ねた2017年の調査で、多くが子どもの頃か10代前半に始まっていました。そしてその調査では、3人に1人が「家族にも似た症状の人がいる」と答えています。ただしこれは、当事者が家族のことを代わりに答えた数字です。親や兄弟姉妹が本当にそうなのかは、本人に聞かないと分かりません。

101人の当事者と、その両親に直接たずねた

今回の研究は、イェール大学医学部のチャイルド・スタディ・センターの Thomas Fernandez さんと Emily Olfson さんが進めている、ミソフォニアの遺伝学研究の一部です。論文の筆頭著者は同センターの Salome Alfaro さんです。この研究には、ミソフォニアの本人と、その生物学的な両親がそろって参加しています。家から参加できる仕組みで、オンラインの質問票に答え、唾液(だえき)のサンプルを郵送して DNA の解析に回す、という形です。

公開された論文が扱ったのは、そのうち質問票の部分です。ミソフォニアの本人(研究では「発端者」と呼びます)101人と、その両親の回答を集計しました。本人の平均年齢は24.6歳で、8歳から64歳までが含まれ、88% が女性でした。ミソフォニアと一緒に持っている状態も多く、不安症が70%、うつが38%、ADHD(注意欠如・多動症)が31%、強迫症(OCD)が25% でした。

ここで大事なのは、親についての情報を、親自身が答えている点です。前の調査のように「あなたの家族にはいますか」と本人に聞くのではなく、母親と父親がそれぞれ自分の状態を申告しています。家族で重なるかどうかを調べるうえで、これは土台の違いになります。

父親の9% に対して、母親は29%

家族歴の集計では、本人の39% に、親か兄弟姉妹か子ども(第一度近親)にミソフォニアの人がいました。範囲を祖父母やおじ・おばなどに広げると、48% に少なくとも1人、ミソフォニアの親族がいました。2017年の調査の「3人に1人」より高めですが、調べ方が違うので、単純に数字を並べて比べることはできません。

ミソフォニア以外の状態も、家族の中で重なっていました。第一度近親に不安症の人がいる本人は65%、うつは57%、ADHD は40%、強迫症は20%、自閉症は13% でした。ミソフォニアだけがぽつんと家族に出るのではなく、不安やうつと一緒に出る家族が多かった、ということです。

そして、この論文でいちばん目を引く数字が、両親の申告の差です。母親のうちミソフォニアがあると答えた人は29%。父親は9% でした。3倍ほどの開きで、統計的にも偶然とは考えにくい差です(p=0.001)。不安症でも同じ向きの差があり、母親が44%、父親が26% でした(p=0.02)。

この差をどう読むかは、慎重さが要ります。ミソフォニアも不安症も、女性のほうに多いことが知られています。だから「母親に多い」のは、ミソフォニアに限らない女性の多さがそのまま出ているだけかもしれません。一方で、この研究に参加した本人の88% が女性だったことを考えると、家族の中で女性にかたよって現れる傾向が、娘と母親で二重に見えている可能性もあります。母親から受け継がれやすい何かがあるのか、それとも性別による現れ方の差なのか。この論文の集計だけでは、まだ切り分けられません。著者らも、遺伝と環境の両方の要因を調べる研究が必要だと書いています。

「ミソフォニアの遺伝子」はまだ見つかっていない

この結果から「ミソフォニアは遺伝する」と言い切ることはできません。家族で重なる理由には、遺伝子だけでなく、同じ家で同じ音を聞いて育ったこと、親の反応を見て育ったことなど、環境の側の要因も混ざります。また、この研究には比較のための対照群(ミソフォニアのない家族)がなく、参加者は遺伝学研究に自分から加わった家族なので、もともと家族歴のある人が集まりやすかった可能性もあります。回答は本人と親の自己申告で、医師の診断を経たものではないという点も残ります。そして何より、この論文は査読前の原稿で、他の研究者の目をまだ通っていません。

では、チームは何を見ようとしているのか。Fernandez さんは、イェール大学の記事の中で、ミソフォニアに「1つの遺伝子」があるとは考えていないと述べています。効果の小さいよくある変異がたくさん重なり、そこにまれで効果の大きい変異が加わる。そういう多因子の仕組みを想定しているそうです。手がかりとして、ごく少人数の予備的なデータでは、ミソフォニアの人に「デノボ変異」(親から受け継いだのではなく、その人に新しく生じた変異)が偶然より多いという兆しがあり、いまそれを大きな集団で確かめている段階だといいます。

そのために組まれているのが、本人と両親の3人ひと組(トリオ)の DNA を読む計画です。3人の DNA を並べれば、本人の変異が親から来たものか、新しく生じたものかを見分けられます。目標は150組のトリオで、比べる相手として、ミソフォニアのない2,000家族ぶんの解読データを使うとしています。参加はすでに100家族を超えています。同じ Fernandez さんが共同の責任著者に入った別の研究では、強迫症と慢性のチック症について、こうした家族単位の全エクソーム解読(タンパク質を作る部分の DNA をまとめて読む方法)から、リスクを大きく上げるまれな変異を持つ遺伝子が36個見つかり、2026年9月に Nature Neuroscience に載っています。ミソフォニアでも同じ道筋をたどろうとしている、ということです。

遺伝子が見つかれば何が変わるのか。Fernandez さんが挙げているのは、薬の標的の候補が出ること、脳の細胞を育てたモデルで治療を試せるようになること、症状の出方が違う人たちを生物学的に分けられる可能性、そして診断が今より早く客観的にできるようになる可能性です。ただし、どれも長い時間のかかる話で、今の治療の中心は、本人に合わせた行動の工夫や、つらさを減らす対処法です。

今回の論文が示したのは、派手な発見ではありません。ミソフォニアの人の4割近くに、同じ症状の近い家族がいる。それは不安やうつとも重なって現れる。そして、母親と父親で申告の割合が大きく違う。この3つを、当事者の言葉だけでなく親自身の回答で数字にしたことが、この研究の中身です。「家族に同じ人がいる」という当事者の間の実感に、はじめて土台がつき始めたところだと言えます。

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